筆者は約10年間食品工場で勤務した経験があります。その中で、精神的・肉体的負担や気持ち的な部分で落ち込み、「食品工場で働くのは病むかも」と何度も思ったことがあるのも事実です。他の記事では食品工場に関してポジティブな情報・体験談を発信している筆者ですが、やはり闇の部分があることも否定しません。
本記事では、あえて食品工場のネガティブな部分として、食品工場で働くと心が病む原因・理由やその対処法、転職・独立を経験した筆者の体験談などを解説します。
食品工場で病む8つの原因・理由とは?
食品工場で病む原因・理由として挙げられるのは、主に次のとおりです。
- 毎日同じ単調な作業・同じ場所での業務で病む
- 同僚・先輩・上司に怒鳴られる
- パートの人間関係に悩む
- 長時間労働が続く
- 他の仕事よりも低年収
- 食品の匂いがきつい
- 衛生的な作業が面倒くさい
- 食品工場での勤務の将来性に不安がある
1.毎日同じ単調な作業・同じ場所での業務で病む
食品工場を含めて、工場勤務での厄介な敵の1つに単調な作業が挙げられます。決まった製品を決まった量だけ生産し、製造の大部分を製造機器が担う食品工場の場合、作業オペレーターの作業も自然と固定化されてきます。
食品工場の仕事のすべてが単調な作業ではなく、原材料の知識、特殊な機械の構造把握、トラブル発生時の問題解決、人員・シフト管理など高度な知識・スキルが求められる業務も少なくありません。
一方で製造機器が順調に回ってトラブルがない、仕込みが簡単な製品しか作らない、生産が早めに終わる日で他に緊急を有する仕事がない、という状況だと時間を持て余す日があります。また他の業種・職種の仕事と比べると、対人コミュニケーション能力やクリエイティブさは求められません。
さらに食品工場の現場は、外部からの異物・汚物の侵入防止や食品の適切な温度・湿度管理のために、外部からは遮断されています。陽の光が入りにくい、密閉した空間での作業が気分の落ち込みにつながると言えるでしょう。
こうした毎日同じ単調な作業が繰り返されると、倦怠感や閉塞感に苛まれ、病んでしまうケースがあります。
2.同僚・先輩・上司に怒鳴られる
鉄鋼や建設業などと比較すると、食品業界にオラオラ系の性格の人は少ないように感じます。とはいえ製造現場ならではのガテン系気質の方はそこそこ存在しており、簡単なミスや気に入らない態度といった、怒鳴る必要がない場面で怒鳴られるケースも少なくありません。
筆者が勤めていた工場でも、上司から毎日1~2時間怒鳴られて精神を病んでしまった方がおられました。エネルギー管理士資格を持つ優秀な方だったのですが、おとなしめの性格だったのでパワハラ気質の上司に目をつけられてしまったようです。
筆者自身は、転職先の食品工場で相性が悪い先輩と当たって苦労した経験があります(パワハラで評判の方でしたが、しばらくして逆にパワハラされて退職したという)。
このように、食品工場でも在籍する人の性格によって同僚・先輩・上司から怒鳴られることがあります。威圧的な態度で接しられ続けると、心が病む方がいてもおかしくありません。
3.パートの人間関係に悩む
食品工場では、検品作業や梱包作業などをパートに任せていることも多いです。製造現場の規模が大きいと、職場内で数十人以上のパートが働くことになります。そして人数が増える分、パート同士やパートと自分との人間関係も複雑化していきます。
こうしたパートの人間関係に悩み、病むことになってしまうケースもあるのです。
パートさんの人間関係絡みのトラブルで多いのは、各人の性格や技量の違いによる相性の悪さでしょう。例えばパートさん同士が喧嘩すると、険悪な空気がそのシフト中に蔓延して働きにくくなります。
パートは正社員と比較すると辞めやすい雇用形態ということもあり、トラブルが発生すると複数のパートさんが一気に退職するリスクがあります。「腕は良いけど付き合いが難しい」という方が職場いると、新人パートが一向に定着しない事態も考えられるでしょう。正社員として働くときも、パートとしても働くときも色々と難しい空気になってしまいます。
さらに工場から働くうえで避けたいのは、パートさんから嫌われることです。「おばちゃんパートから悪い印象を持たれて、ちょっとした諍いが誇張されて悪い噂として広まった」という話をよく聞きます。仕事でお願いをしても嫌な顔をされたり、思う通りにしてくれなかったりなどのリスクも出てきます。
4.長時間労働が続く
生産状況や人員数によっては、長時間労働が続く食品工場もあります。現在は働き方改革の一環で、労務管理やシフト調整によって残業を減らす取り組みが進められているものの、それでも調整しきれずに残業となるケースはよくあることです。
ライン切り替えや設備工事などのイレギュラーな対応が原因ではなく、トラブル対応や繁忙期での生産など、普段の業務で長時間労働が続くと精神的・肉体的にも相当ダメージを負います。
筆者の場合、一番忙しかった時期に繁忙期+人員削減+正社員→派遣社員の置き換えなどの施策が重なったせいで、休日出勤+残業+肩負傷というトリプルパンチを食らって病む時期がありました。今思い返しても、あの時期は地獄だった…。
他メーカーのブランド商品の製造を委託されて稼働するOEM生産型だと、委託元の指示や指定納期に合わせるために休日出勤や残業が増える可能性があります。
5.他の仕事よりも低年収
食品製造業は、他の製造業と比較して年収がやや低い傾向があります。例えばマイナビエージェントの業種別平均年収ランキングだと、鉄鋼・金属の平均年収が451万円に対し、食品は439万円となっていました。
食品業界は需要が安定しているものの、鉄鋼業などの産業と比べると莫大な利益を一気に生み出すのが難しい業界です。大卒の方が就くような食品メーカーの営業、研究、開発、購買といった花形職種ならまだしも、食品工場勤務だと「年収が少ないかも…」と思うかもしれません。
6.食品の匂いがきつい
食品工場で取り扱う食材や香料によっては、自分の体に匂いが付いてしまう可能性があります。食品の匂いを苦手に思う方は、匂いがきつめの食品工場で働くと精神的に病むかもしれません。
7.衛生的な作業が面倒くさい
食品工場では、消費者の食中毒や風味・味の劣化などを防ぐために、あらゆる場面で衛生的な作業が求められます。筆者が経験した衛生的な作業の中で大変だったものは次の通りです。
- クリーンスーツや帽子、マスクなどの毛髪などの体毛や飛沫の混入防止用のアイテム着用による圧迫感に耐える
- 清浄区域へ入室するときの徹底した手洗いとローラーがけが面倒くさい
- 不衛生な箇所を触らない
- メンテナンス作業などで少しでも作業着が汚れたら着替える
- 使用した器具は必ず洗浄・殺菌し衛生的に保管する
- 製造機器や配管などの洗浄・殺菌が正しく行われているかのチェックや、洗浄・殺菌後の微生物・異物のチェックなどを欠かさず行う
食品工場の製品は、少しでも不衛生な取り扱いや洗浄不良が発生すると、品質や安全性に問題が発生し出荷できなくなります。自分のミスで出荷停止や廃棄などになると、精神的に病んでしまうこともあるでしょう(私も何度か経験しましたが…)。
8.食品工場での勤務の将来性に不安がある
AIの台頭や自動化などの要因で、食品工場での勤務の将来性に不安を感じて病む方も少なくありません。食品工場の将来性で不安な面とは、次のものが挙げられます。
- 人手不足で残業の増加やストレス過多になるのではと心配になる
- 自動化によって、人間が働くところが少なくなるのではと不安になる
- 単調な作業のせいでキャリアアップの機会が乏しいと思ってしまう
このように食品工場での勤務は、単調な作業と自動化の進展により、将来性に対する不安を生む要因となっています。従業員は技術革新に適応し新たなスキルを身につけることで、キャリアの発展と職場の満足度を高める必要があるでしょう。
食品工場で病む場合の対処法
食品工場で働く上で、心が病むときはどのように対処すればよいのでしょうか。ここからは筆者の体験談や考察を踏まえた、食品工場で病む場合の対処法についてまとめました。
部署異動ができるなら検討してみる
部署異動ができる環境であれば、一度上司に異動の意思を伝えて部署を変えてみるのも、食品工場で病むことへの対処法の1つです。職場が変われば周囲の人間関係や業務内容が大きく変わり、状況が好転するケースがあります。
私の場合は逆の経験となりますが、長年仕込み作業に従事してから製造機器での充填作業が中心の職場に異動してから、慣れない作業と新しい製造機械の調整に苦労しました。
一方で仕込み→品質管理への異動で「仕込み作業よりも、衛生管理とか見るほうが性に合っている」という先輩もいます。
このように職場異動は、よくも悪くも周囲の環境が大きく変わります。良いパターンも悪いパターンも色々見てきたので、劇薬といえば劇薬です。
仕事への責任感を持ちすぎない
食品工場の仕事を含め、世の中の仕事は責任感を持って遂行するのが通常です。とはいえ、仕事に傾倒しすぎて病んでしまうのは本末転倒。個人的には、仕事への責任感を持ちすぎないことをおすすめしています。
例えば私の知り合いの場合、製造機器がトラブルを起こしても「俺が買ったんじゃなくて会社が買った機械だから、基本的には機械がどうなろうとどうでもよい」という精神で仕事しています(仕事はきちんとやっていて今は課長補佐です)。
当然ですが、仕事への責任感を持たない=仕事をサボるということではありません。仕事はしっかりとやりつつ、イレギュラーに発生したトラブルや故障に関して「自分のせいだ…」と落ち込む必要はないということです。
可能ならむしろ仕事の実力をつけて周りを黙らせる
少し難しく時間や努力が必要ですが、むしろ食品工場の仕事に関するスキル・知識を向上させて回りを黙らせ、働きやすい環境を作るという方法があります。
同僚のおっちゃんは「会社の言いなりになりたくない」と、エネルギー管理士や電験3種、電気工事士などの資格を取得し、業務の幅を広げたり異動したりして環境を変化させていました。するとこれまで任せられなかった仕事を上司や同僚から頼まれるようになり、以前より舐められなくなったと言っていたのを覚えています。
筆者の場合は冷凍機械責任者1種を取得したことで、冷凍機の点検などを含む工務係へのお誘いがありました。機械的構造や冷凍関係の知識が増えたことで仕事にも良い影響をもたらし、周囲からの評価も高まった経験があります(まあ、おっちゃんも私もその後転職したのですが)。
資格取得以外なら、「担当する機械に関して誰よりも詳しくなる」「他の職場や担当者の仕事も積極的に覚えてみる」などが考えられます。仕事への積極的な姿勢は、自分が思っているよりも評価されるものです。
病む原因にトコトン向き合ってみる
食品工場での勤務の中で病む原因がはっきりとわかっている場合は、その原因にトコトン向き合い対処法を見出すことも検討してみてください。
- 苦手な相手がいる場合は、思い切って自分への不満点やその他考えていることを聞いてみる
- 作業で辛いところを洗い出し、作業動線の変更などの職場改善や上司・同僚への相談などを行う
筆者の場合もよくあったのですが、「あれだけ悩んでたのに、真剣に向き合ったら案外簡単に解決した」というパターンが存在します。100%解決できる保証はありませんが、一度思い切って問題解消に取り組んでみるのもよいかもしれません。
転職も検討してみる
すでに食品工場で働いている人で、「この食品工場で働き続けたら病む!」と判断したときは、思い切って転職を検討するのも手です。環境を根本的に変化させれば、ストレスの原因となっていたものが一気に解消される可能性があります。
筆者が転職した感想については、次章で詳しく解説しています。
食品工場勤務から転職・独立はよいのか?実体験を基に考察してみる
食品工場で病むという方にとって、転職は1つの選択肢に入ります。また、私のように独立してフリーランスや経営者としての道を模索する方もいるかもしれません。筆者は食品工場から違う食品工場へ転職、その後はWebライターとして独立という流れです。
実際のところ食品工場勤務の転職や、工場勤務からの独立はどのような感じなのか、ここからはあくまで私の実体験をベースに色々と考察しました。
人間関係は大きく変わる
転職したとき、独立したときのそれぞれの節目で、人間関係は大きく変わりました。例えば同じ食品工場へ転職した後は、前の職場で交流があった人としか会っていません。友人と異なり、あくまで仕事上の同僚という関係なのでこれが普通だと思います(私が転職した以前に退職された方とも、結局は退職後に会うことはほぼありませんでした)。
転職後の食品工場は、前の職場とかなり雰囲気が異なっていました。元々関東に本工場を構えている会社が関西で設立した新工場で、転職組と本工場からの転勤組の2大派閥で業務を進めている、というイメージです。それに、珍しく大卒の方が多い製造現場でした。同じような製品を製造するのに、会話内容も製品への考え方も結構違って戸惑った思い出があります。
その後、私はWebライターとして独立するのですが、ここで「会社を止めた」「よくわからないことをしている」と判断されたのか、何人かと縁が切れることになります。元々が積極的に交流することがなかった私ですが、まあこんなもんかと納得したのを覚えています。結果的に高校時代や前の職場でよく交流していた人しか、交友関係として残っていません。
またフリーランスの世界では、正社員として働いていたときと違った属性の方と会う機会や、業務委託先の経営者・管理職の方とお話する機会が増えました。一方で、普段の仕事は在宅で1人寂しく仕事をすることがほとんどです。
これはあくまで私の例ですが、食品工場からの転職や独立によって人間関係は大きく変化します。環境を変える手段として、転職や独立はリスキーながらも有効と言えるかもしれません。
同業種への転職なら業務内容は変わるが機械構造の基礎は変わらない
食品工場から食品工場へ転職した筆者の感想として、食品会社ごとに作る製品や業務内容は異なる一方で、使用する製造機器の機械構造はそこまで大きく変わらないと思っています。
例えば、食品工場でよく使用するサニタリーポンプの構造は基本的にほぼ同じですし、一定の衛生基準が存在するのも同じです。食品工場で働く基本的な心構えと技術があれば、そのあたりは対応しやすいと思います。
もちろん、業務内容は大きく変わるので、あらためて仕事を覚えなければならないのは変わりませんが…。
独立と雇用契約のどっちがよいかは人による
独立したフリーランスを約5年、正社員の雇用契約を約10年(ついでにアルバイト半年ほど)を経験した筆者の感想として、独立してある程度自由に働くことと、雇用契約で労働基準法や会社の指揮命令の下で働くことのどちらがよいかは人によります。
独立して2024年で6年目となりますが、未だに明日の収入やご飯に不安を抱えています。また、自分の失敗や怠慢がモロに収入に直結する現在の環境は、食品工場とは異なる精神衛生上の不健康につながっているという。
迫りくる納期への対応やその他のスケジュール立て、経理作業、確定申告など色々とやらなければなりません。
しかし起きる時間や休憩時間は自由、通勤がない、書く仕事が好きだからなんだかんだ楽しいといった、食品工場勤務にはない独立ならではのさまざまなメリットもあります。独立したことは後悔していません。一方で食品工場での安定した収入や、たまにあった安定稼働中の何もしなくても給料が発生する時間を懐かしく思います。
転職するときは「なぜ転職したいのか」を明確にする
もし食品工場からの転職を希望するときは、「自分はなぜ転職したいのか」を明確にすることが大切です。曖昧な理由のままで安易に転職すると、転職先でも同じ悩みを抱えてしまう可能性が高くなります。
食品工場からの転職でもっとも考えるべきは、「今働いている食品工場から転職しないと、本当に問題は解決しないのか」です。転職には多大な時間とお金が必要になるので、もし元職場での問題が解決できれば転職しなくてもよいと考える方も多いのではないでしょうか。
そのため、人とのコミュニケーションや職場改善で解決できる糸口があるなら、まずは問題解決に向けて全力を注いでみることをおすすめします。それでも駄目だと判断したら、あらためて転職を考えるのがよいと思います。
ただし、すでに限界を迎えるほど心を病む方は、我慢せずに行動を起こしたほうがよいかもしれません。冷静な判断ができないときは、友人、家族などの心許せる方や、キャリアアドバイザーなどの第三者のプロなどへ相談してみてください。
食品工場で働くと病むこともあるかもしれない
「食品工場で働くと心が病む」というには、実際にあり得ることだと思います。心が病んでしまったからといって、「私が弱いから」「自分が情けない」と自分を追い込む必要はありません。私自身、食品工場で働いて何度も心をへし折られました。
食品工場での勤務は、大変なことも多々あります。本当に辛いときは、同僚や友人に愚痴を聞いてもらう、思い切って休みを取ってみるなど自分で自分の機嫌をとってみてください。それでも難しいようなら、転職なども視野に入れてみてはいかがでしょうか。
▼こちらもおすすめ!