世間一般の食品工場勤務に対するイメージとして、華やかな職業と比べると目立たず、底辺だと思われることも珍しくありません。「食品工場はやめとけ!」「きついから大変だぞ」と耳にすることもあるのではないでしょうか。
食品工場で約10年間働いた筆者としては、やめとけと言われる理由もよくわかります。一方で、「巷で言われるほどひどいというわけでもない」「やりがいはあるし、楽しいところもある」とも思っています。生活に困窮するほど給料が低いわけでもないですし(というか会社による)、虚無の仕事でもない。
ようは自分が興味を持てるか、楽しく働けそうかを見るのが一番大事かと思います。
本記事では、食品工場で約10年間働いた筆者および知り合いの経験談を基に、「食品工場はやめとけ」「きつい」と言われる理由や、食品工場をやめるか否かを悩んだときにおすすめした考え方などを解説します。
Contents
食品工場はやめとけ・きついと言われる8個の理由
食品工場勤務10年の筆者が考える、食品工場はやめとけ・きついと言われる理由は以下の8つです。
- 底辺というレッテルを貼られる
- ややこしい人間関係巻き込まれる
- 単調作業が続いて仕事に飽きる可能性がある
- 24時間稼働する工場だと夜勤がしんどい
- 閉鎖的な空間で仕事をするので精神的な疲弊が出る
- ビジネスマナーや文書作成能力などが身に付けづらい
- 3K職場で体力・精神的に大変
- 工場の仕事はロボットやAIに奪われるという説がある
以下では経験談を基に、それぞれの詳細を解説します。
1.底辺というレッテルを貼られる
「食品工場で働くのは底辺!」という、あまり好ましくないレッテルを貼られるのも、食品工場はやめとけと言われる理由の1つです。「パン工場で時間が過ぎるのが遅すぎる」「ベルトコンベアから流れてくる弁当に飾りを乗せるだけ」といった、極端なイメージが横行しているせいだと考えられます。
当然ながら、食品工場で働いているから底辺という決めつけ・イメージは早計です。職業に貴賎はないですし、世に出回っている食品・嗜好品を日夜作ってくれる方々のおかげで、私たちはいつでも美味しいものを食べられます。さらに工場のある地域での雇用が生まれ、地域経済を活性化させることにも一役買っています。
そもそも食品工場も他の仕事と同じで、勤め先の製品や規模、風土によって業務内容や待遇は大きく変わるものです。大手食品メーカーなら食品工場だろうと高年収ですし、工場の将来を担う一大プロジェクトを任されるケースも存在します。
2.ややこしい人間関係巻き込まれる
食品工場でも、他の仕事と同じく職場のややこしい人間関係に巻き込まれるかもしれません。近年の食品工場は派遣社員やアルバイト・パートなど別の雇用形態の方々や、外国の方などが集まるケースが増えているので、他の職場よりも複雑な人間関係が形成される可能性があります。また、食品工場は鉄工所などより女性が働きやすいので、異性同士のいざこざのリスクがあります。
以下では、私が実際に目撃したややこしい人間関係をまとめました。
- パートのおばちゃんの中で派閥ができ、新人が苦労したりシフト管理が大変になったりする
- 男女の色恋沙汰が発生してめんどくさくなる
- 正社員とパートの不倫が発覚して大問題になる(そりゃそう)
- 仕事をサボる派遣社員の方に対して、雇い主が異なること(派遣社員の方の雇われ先は派遣会社)から契約上のトラブルに発展する
- 酒・女・ギャンブルの話をゴリ押してくるおっちゃんと話が合わない
- 経営陣・管理側の従業員と、現場側の従業員で意見がまったく合わない
- 大卒の方が高卒の方中心の職場に放り込まれ、お互いに価値観が合わずに疲弊する
多種多様な性格・学歴・経歴の方々が集まるのが、食品工場の職場です。職場でめんどうくさい人間関係に巻き込まれた人は、その経験談から食品工場はやめとけと言うケースがあります。
3.単調作業が続いて仕事に飽きる可能性がある
食品工場の正社員はさまざまな仕事を抱えていても、現場でのルーティン作業には必ず携わります。1日中現場作業を担当することも珍しくありません。そのため、毎日慣れたルーティン作業を続けていると「毎日同じことばかりで飽きる」と、仕事のモチベーションが大きく下がる可能性があります。ルーティン作業が単調な作業だと、なおさら飽きやすいでしょう。
とくにアルバイト・パートが担当するライン仕事だと、業務時間中はベルトコンベアや機械の前にずーっと立っている状況になることもあります。「食品工場は時間が経つのが遅いからやめとけ」という意見が出るのもわかります。
ただし、洗浄作業やライン切り替えなどの作業があるときは、同じ作業の繰り返しではなくなるので時間が経つのが早いです。また正社員の場合はルーティン作業以外のもさまざまな仕事をこなす必要があるので、職場によっては作業に飽きると言っていられなくなります。
「食品工場は同じことの繰り返ししかない」というのは極論だと思うので、信じすぎないように注意してください。
4.24時間稼働する工場だと夜勤がしんどい
製品を大量生産する食品工場だと、1週間24時間稼働(洗浄作業含む)しているケースもあります。24時間稼働させるには、夜勤シフトが必要になります。しかし、夜勤は慣れないと肉体的にも精神的にもめちゃくちゃしんどいです。夜勤で働くデメリットは次のとおりです。
- 生活リズムが逆転するので、朝型・昼型の人は働きにくくなる
- 日中に外の音や光が気になって眠れなくなる可能性がある
- 正社員とパートの不倫が発覚して大問題になる(そりゃそう)
- 他の人との予定が合わなくなる
- 自律神経に問題が出る可能性がある
夜勤専門で働く場合はまだマシですが、正社員だと週・月ごとに早番・常勤・遅番・夜勤のシフトが常にローテーションする可能性があります。例えば、週ごとに早番→遅番→夜勤と変わるケースです。
これが慣れないうちはかなりきつく、私は10年間勤めても完全に慣れることはありませんでした。私自身が「食品工場をやめたい…!」と思った理由の大半は夜勤の存在です。
とはいえ、人によっては夜勤のほうが生活リズムが合う人もいます。また、夜勤には深夜手当という大きすぎるメリットもあるので、夜勤のほうが好きという人も結構いらっしゃったりします。
5.閉鎖的な空間で仕事をするので精神的な疲弊が出る
食品工場は、職場的にも作業的にも閉鎖的な空間で仕事をすることになります。同じ場所、同じ人間、同じ作業が続くと、精神的疲労を感じるかもしれません。
食品工場では、営業・小売などの消費者や取引先とのやり取りが頻繁に発生する仕事と異なり、同じ製品を同じメンバーで作り続ける必要があります。また現場で作業しているときは、衛生的観点から無駄な私語はできる限りしないように言われるのが通常です。
6.ビジネスマナーや文書作成能力などが身に付けづらい
食品工場の現場で働く場合、身に付けられるスキルは機械関係、製品の知識、工業系の資格など工場現場に特化したものがほとんどです。食品工場にもデスクワークや報告書作成などの業務は存在しますが、営業、経理、研究開発などの他の仕事と比べると、ビジネスマナーや電話対応、文書作成にかかわる機会が少なくなります。
そのため食品工場には、汎用性の高いビジネス系のスキルが身に付けづらいというデメリットがあります。「スキルが身に付かないから食品工場はやめとけ」と言われるのは、このような背景があるからでしょう。
しかし、ビジネスマナーや文書作成能力は本人の学習次第で身に付けられます。食品工場だと機会は少ないものの、業者との電話・対面のやり取りや報告書・発表会資料の作成などの仕事があるからです。
少ない機会の中でも集中して取り組めば、しっかりとスキルを磨けます。ときには自主的に数時間~数十時間収集してビジネスマナーについて勉強すれば、最低限のものは身に付けられるはずです。
7.3K職場で体力・精神的に大変
食品工場は、配属される職場によっては3K(きつい、汚い、危険)となっており、働くと体力・精神的に大変になるケースがあります。
例えば筆者が配属された調合の職場では、20〜30kgの粉体運搬・投入や18〜25kgの一斗缶の缶開け・投入、強烈な匂いを放つ香料の投入などの作業がありました。さらに、微生物が出ないよう衛生的に進める作業を必要があります。
力仕事や原料投入・加工作業がない職場であっても、機械の調整や切り替え作業、洗浄作業、トラブル対応など、常に体と頭を使う環境に立たされるケースも珍しくありません。
仕事=デスクワークや接客のイメージが強い人ほど、ギャップでびっくりすると思います。そういったイメージの人に対して、「食品工場はきついからやめとけ」と伝えるパターンも見受けられます。
8.工場の仕事はロボットやAIに奪われるという説がある
2023年はAI・IoTの進化が目覚ましく、生産ラインの自動化やAI技術を活かした精度の高い検査機器なども続々と登場しました。そうした技術の進化の中で「工場の仕事はAIやロボットに奪われるから、将来性がないからやめとけ」との言葉も聞かれるようになっています。
筆者が食品工場を辞めた6年前の時点でも、勤め先のロボットや自動化設備の活用による人員削減が行われていました。いわゆるファクトリーオートメーションによる省人化・省力化は、これからもどんどん進められると思います。
とはいえ、今後数十年で人間の仕事がなくなるほど工場の仕事がロボットやAIに置き換わることはないと、現場を見てきた筆者は思っています。AIツールの管理・改善の仕事といった新しい需要や、少子化による将来的な労働力不足、工場ごとにある独自技術のAI化の難しさなど、AIだけではまかないきれない部分も多く見られるからです。
また、かかるコストが「AI導入・維持やAI人材の育成>人件費」の関係性である限り、食品工場側に導入メリットが少ないので、中小企業などでの導入はまだまだ時間がかかると思います。他にも工場の作業スペース的に人の手で進めたほうが効率がよい、というケースもあるでしょう。
食品工場はやめとけ・きついに関する真偽不明の情報を検証
食品工場はやめとけ・きついという意見の中に、「それは勤める工場によって真偽が違うのでは?」「間違った情報が伝わっていないか?」と思うようなものを耳にするケースがあります。
ここからは食品工場はやめとけという意見の中でも、真偽不明の情報や環境に左右される情報について、筆者の経験や見解から検証していきます。あくまで筆者の経験からくる主観なので、参考程度にお読みください。
給料が低すぎるって本当?
結論から言えば、食品工場の給料が低いかどうかは勤める企業の待遇によります。大手や優良な食品メーカーの工場勤めなら、独身生活で余裕ある暮らしができますし、結婚も十分に可能です(私の昔の同僚や先輩・後輩はほとんど結婚しました)。
しかし食品製造業の給与水準は、鉄鋼業、自動車業、化学工業などと比べてやや低いのは事実です。例えばマイナビエージェントの業種別平均年収ランキングでは、次の結果が出ていました。
業種 | 平均年収 |
食品 | 439万円 |
鉄鋼・金属 | 451万円 |
化学・石油製品・繊維 | 470万円 |
自動車・自動車部品・輸送用機器 | 473万円 |
しかし、食品業界は世界情勢・経済状況にかかわらず一定の需要が見込める安定した産業でもあります。
とはいえコロナ禍においては巣ごもり需要で内食系の消費が増えた反面、外食業は大きなダメージを受ける形になりました。また、物価高などの影響で食品需要も変化を見せています。常に一定の安定が約束されているわけではないものの、それでも食品工場の完全に仕事がなくなるケースはかなり珍しいと言えます。
人手不足の業界なの?
食品製造業全体で見ると、人手不足問題が出ているのは事実です。富士電機の「食品工場の人手不足に関する意識調査」や農林水産省の「食品産業の働き方改革早わかりハンドブック」などの調査結果でも出ています。
逆に言えば、人手不足=未経験でも就職・転職しやすい仕事だとも言えます。
夜勤はお金が貯まるっていうのは事実?
夜勤シフトだと、午後10時~翌午前5時(22:00~5:00)の間で働くと発生する深夜手当の対象になります。深夜手当なら、通常の賃金の25%以上の割増賃金が手に入ります。さらに休日労働や残業が深夜の時間帯に重なると、通常より50~60%以上の割増賃金です。
出典:愛媛労働局「時間外、休日及び深夜の割増賃金(第37条)事業場外労働のみなし労働時間制(第38条の2)」
つまり夜勤シフトや深夜残業が増えるほど、日勤よりもお金が溜まるのは事実です。私も夜勤シフトに入っているときは、手取りが増えることだけが唯一の夜勤の楽しみでした(私は夜勤が大っ嫌いだったので…笑)
未経験でも働きやすいって聞いたけど?
先述した人手不足の影響や単純ルーティン作業の存在などから、食品工場の仕事は完全未経験からでも比較的挑戦しやすいです。
また近年では安全衛生面での必要な基準が上がったことで、生産に問題が出ないよう新人研修や教育制度を受けられる環境が以前より整ってきています。初めての工場勤務でも、1から知識・技術を学べるでしょう。
とはいえ、勤め先によっては「見て覚えろ」「メモを取るな」といった前時代的な教育をする可能性も否定できません。
スキルが身に付かないから異業種への転職は難しい?
食品工場から異業種転職を目指す場合、食品工場で培った技術・知識をそのまま応用して転職活動に活かすのは確かに難しいと思います。私も食品工場から転職しましたが、それは同じく食品工場への転職でした。
「じゃあ食品工場から異業種転職は無理なの?」と思われるかもしれませんが、不可能ではありません。私の知り合いの場合だと、食品工場からビルメン、経理職、独立したという方がおられます。中には現職中に大型免許を取って、バス運転手になった方もいました。
食品工場から異業種へ転職したいときは、食品工場で身に付けられるスキルをチェックしておきましょう。食品工場じゃスキルは身に付かないというイメージが先行していますが、しっかりとスキルの棚卸しをすれば、自分でも気づかなかった強みに気づけると思います。食品工場で身に付くスキルの例は次のとおりです。
- 職場のリーダークラスならマネジメントスキル
- 後輩がいるなら後輩の育成力
- 問題の抽出能力・問題解決能力
- 品質管理や衛生管理の知識
- 機械・電気関係の知識
- 忍耐力
- 体力
上記のスキルを持った上で年齢が若いなら、異業種への転職も比較的成功しやすいと思います。とはいえ、他の業種・職業のほうが有利になる面が多いのも事実でしょう。
そのため、食品工場からのキャリアチェンジを目指すときは、「普段からルーティン作業以外の業務にも積極的にチャレンジする」「業務外の資格勉強や研修参加などを行う」「(副業禁止でなければ)副業で他のスキル・実績を磨く」など、より多くのスキルを身に付ける努力が必要になります。
食品工場はやめとけは本当なの?自分が働くべきかを決める指標
「食品工場はやめとけ」「きつい」という意見に対する個人的な意見は、「人によりけりすぎるから、やめとけと断言するのは早計」です。
筆者はこれまで食品工場に勤めたまま幸せになった方、辞めてからのほうがイキイキしている方、辞めたことを後悔している方など、食品工場に携わってきた方々のさまざまな悲喜こもごも見てきました。結局のところは、自分に合うか否かが大切なのです。
最後に、筆者の主観ではありますが、食品工場で働くか否かを決めるときの指標・考え方を解説します。
食品工場の働き方が自分に向いているかを見る
そもそも食品工場の働き方が、自分に向いているか否かを考えてみてください。もし「お金がよいから働いている」と考えていても、食品の取り扱いや機械操作自体が嫌な場合はストレスを抱え続けることになります。
もし創造性の高い仕事や、人と話す仕事が好きなら、少なくとも食品工場で働くよりもよい環境があります。逆に食べ物の製造に関わりたい、自分の知っている商品を作りたいという方は、食品工場こそ理想の職場になるかもしれません。
筆者が考える、食品工場で働くのに向いている人の特徴は次のとおりです。参考にしてみてください。
- 食品やものづくりが好きな人
- 黙って作業するのが得意な人、苦に思わない人
- 機械いじりが好きな人
- 細かいところまで気がつく人
- 食品製造に達成感を覚える人
「食品工場」ではなく「勤め先単体の将来性や業務内容」という観点を持つ
食品工場と一括りで考えるのではなく、あくまで「勤め先単体の将来性・業務内容」という観点を持つことが、食品工場で働くか否かを決めるときに重要です。
例えば同じ食品工場でも、作る製品も違えば工場の特徴(大手メーカーの工場か、下請けでも優良企業で業績がよいか、人員・生産が足らずに覇気がないかなど)も異なります。働きやすい食品工場もあれば、働きづらい食品工場もあるということです。
これから入社する、または現在入社している食品工場の将来性や業務内容をしっかりと分析し、本当にここで働くべきなのかをチェックしてみてください。「イイ!」と思ったところなら、食品工場→食品工場の転職でもうまく行く可能性があります。
私の後輩も食品工場から類似製品を作る食品工場へ転職しましたが、転職前はずっと辞めたいと言っていたのに、転職後は職場リーダーになるくらいバリバリ働いています。本人いわく「人間関係と業務内容が自分に合っていた」だそうです。同じような製品づくりでも、実は人間関係と業務内容が嫌なだけだったというパターンがありえるかもしれません。
食品工場をやめとくべきかはあなたの気持ちや適正次第
食品工場はやめとけが正解かどうかは、あなたの気持ちや食品工場への適性が大きく左右します。少なくとも筆者は、「食品工場は絶対にやめとけ!」と断言することはありません。
筆者は「食品工場で働くより書く仕事にチャレンジしたい!」と思ってWebライター業界に飛び込んだ口ですが、食品工場は楽しかったしやりがいがある仕事だと思っています。同時に、やめたくなる気持ちもわかるつもりです。
だからこそ、食品工場はやめとけという極論に流されず、あなたの状況や気持ちに向き合って決めることをおすすめしたいと思います。
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